ADHDの子どもの睡眠の特徴

発達障害と睡眠の関係
ADHDと睡眠障害

ADHDに特徴的な睡眠障害は寝付きの悪さ(入眠困難)と夜間に何度も目を覚ます(中途覚醒)があります。この睡眠障害があると、2~3割がADHDに該当するともいわれます。

ADHDの中核症状が強い場合は、夜間もなかなか落ち着けず寝付きが悪いうえに、一度夜中に起きてしまうと騒いだり、動き回ったりして家族の睡眠環境を悪化させる傾向があります。

  • AD優位型(不注意が強いタイプ)では、宿題や課題、日々のルーチンワークが終わらずにいつまでも取り組んでいたり、時間がかかることで、就寝時間が23時〜午前0時以降と遅くなり、さらに寝付き自体も悪くなり、何度も夜に起きてしまうなどを認めることがあります。
  • HD優位型(衝動性が強いタイプ)では、保護者の指示に従えず、夜にゲームやコンピュータへ過度に集中してしまい、頭が過度に働きすぎて、夜に何度も起きてしまったり、すぐに寝付けなくなります。また思春期になると、一晩中スマホやタブレットが手放せず、昼夜逆転などのサーカディアンリズム異常がおきてしまうこともあります。
ADHDと睡眠障害の最近の研究成果

「ADHDと睡眠障害は表裏一体」

アムステルダム自由大学医療センターの研究者は、パリで開催された国際学会で、「ADHDと睡眠障害とは表裏一体のような関係である」と発表しています。さらに、ADHDの中核症状である行動障害と睡眠との関係について、米アルベルト・アインシュタイン医学校の睡眠学の教授は、子どもを対象とした調査で「いびきや口呼吸、無呼吸などの睡眠呼吸障害がみられる子どもは問題行動を起こす割合が多い」ことを明らかにし、子どもの睡眠呼吸障害には、幼少時から注意を向けるよう警告しています。

ADHDとサーカディアンリズムの関係

睡眠障害の研究者によると、ADHD患者の75%は、睡眠のためのホルモンであるメラトニンの分泌など、入眠時に通常出現する体の変化が、健常者に比べて1.5時間遅いといいます。

これに伴って、睡眠中の体温変化も遅れることを報告しています。さらに「昼夜のリズムが乱れた結果、睡眠だけでなく、体温や行動パターン、食事のタイミングなども乱れ、これが不注意や問題行動をもたらしているのではないか」と報告しています。このように、最新の研究では睡眠障害がADHDの発症要因の一つとして捉えられるようになってきています。

ADHDの睡眠障害の診断

一般の小児科クリニックや病院ではADHDの睡眠障害の診断は、主に睡眠に関する質問紙や睡眠日誌(睡眠表)が使用されます。

昭和大学横浜市北部病院では、より客観的な指標として,ご家庭で計測可能なアクチグラフ終夜睡眠脳波検査、表面体温測定、唾液サンプルによる薄明下メラトニン分泌開始時刻(dim light melatonin onset:DLMO)検査などを総合的に評価して、自閉症のお子さんの睡眠状態の正確な把握と治療方針決定に役立てています。

ADHDの睡眠障害の治療について

1.睡眠衛生指導/教育

子どもが眠る部屋の環境調整、入眠の儀式(本を読んでから寝るなど)や日常生活指導(起床時間と就寝時間の一定化)などを含めた睡眠環境調整が一番大切です。

朝の食事,早朝の運動などの非光同調によるメラトニンとその前駆物質であるセロトニンの合成促進,夜のブルーライトによるメラトニン合成阻害の軽減やディスプレイ画面によるドパミン・ノルアドレナリン分泌の制御など、スマホやタブレットの夜間の使用制限も重要な治療法の一つです。

 

2.薬物療法

1)メラトニン

ADHDの薬物治療において、米国神経学会のガイドラインでは、第一選択薬としてメラトニンが推奨されています。日本ではメラトニン製剤である、メラトベルの服用を基本としています

メラトニンの投与による睡眠の改善とともに,日中の不注意や行動の問題(キレる、暴言を吐く、暴力を振るう)などの軽減,指示の通りやすさがみられることが多いです。

 

2)メラトニンとその他の薬の併用

ADHDの子どもでは、グアンファシン(インチュニブ)やアトモキセチン(ストラテラ)はADHD症状だけでなく、睡眠障害にも有効である場合も多いです。

特にグアンファシン(インチュニブ)には眠気の副作用があり、この副作用の効果を期待して夕方や就寝前に服用すると衝動性だけでなく、入眠障害も改善されます。

アトモキセチン(ストラテラ)はノルアドレナリン神経系を介して睡眠に良い影響を与えますが、まれに中途覚醒が増加する場合もあり、このような時は.朝夕の投与量の配分の変更や、海外では承認されている朝1回だけの投与に変更することも考えます。

 

3)不安障害やパニック症状を併存する場合

ADHD症状にくわえて、不安や怖さ、パニックなどの症状がある場合は三環系抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)なども子どもに対して用いられる場合もありますが,より慎重な投与が必要です。