自閉症の子どもの睡眠の特徴

発達障害と睡眠の関係
自閉症スペクトラム障害と睡眠障害

通常の子どもでは、睡眠の問題を抱えるのは40~50%であるのに対して、自閉症の子どもでは64~93%に何らかの睡眠の問題があると報告されています。

 

自閉症の子どもで多く認められる睡眠障害の症状は、

①布団に入ること自体への抵抗

②入眠困難や中途覚醒

③早朝覚醒,朝の覚醒困難などがあります。

 

①〜③があることで睡眠時間の短縮や睡眠効率の低下、サーカディアンリズム異常などを起こします。

 

これらの睡眠障害の症状は、自閉症の主たる症状の一つと考えられています。

さらに、睡眠障害が改善されてないと、日中の様々な行動に影響を与えます。

 

通常の子どもでも、睡眠障害は社会的なコミュニケーション障害や感情の抑制、実行機能などに影響を与えることが知られていますが、特に自閉症の子どもでは、周囲の友人関係の困難さ、物事へのこだわり、かんしゃくや他人や家族への攻撃的な行動などにも強く影響を与えます。

 

さらに、自閉症の子どもの特徴の一つである、感覚過敏(味覚や聴覚の鋭さ)や感覚鈍麻(触覚の鈍さ)などの、感情や感覚の問題にも影響を与えます。

 

また、自閉症の併存障害/状態である注意欠如・多動性障害(ADHD)やてんかん,気管支喘息などのアレルギー性疾患,便秘や下痢などの消化器症状,拒食や過食、不安障害やうつ症状などにも悪い影響を与えます。

 

今までは自閉症の子どもの睡眠障害は、自閉症に付随した症状や状態の一つとして考えらえてきましたが、最近は睡眠が胎児期からの脳の発達に大きな影響を与えることがわかってきており、睡眠異常そのものが社会的コミュニケーションの障害としての自閉症の原因になっているのでは?という研究成果が増えてきています。

 

自閉症と睡眠障害が関連する理由

胎児期からの睡眠リズムは、大脳の神経細胞新生やシナプス形成などの脳神経の発達に深く関連し、言語や学習、記憶などの認知機能や社会的コミュニケーション、協調運動行動などの高次脳機能(前頭葉機能)の発達の基礎となっています。

 

また、睡眠を調整する時計遺伝子が自閉症の脳障害の原因となるシナプスの形成・維持,刈り込みにも関与していることが解明されてきており、自閉症の進展と睡眠障害の共通の原因である可能性が示唆されています。さらに、脳内のメラトニン濃度の低下や松果体でのメラトニン合成や受容体に関連する遺伝子異常も報告されています。さらに、セロトニンやγ一アミノ酪酸(GABA)の異常による睡眠リズムの異常などが報告されています。

 

自閉症の睡眠障害の診断について

一般の小児科クリニックや病院では、自閉症の子どもの睡眠障害の診断は、主に睡眠に関する質問紙や睡眠日誌(睡眠表)が使用されています。

昭和大学横浜市北部病院では、より客観的な指標として,ご家庭で計測可能なアクチグラフ終夜睡眠脳波検査、表面体温測定、唾液サンプルによる薄明下メラトニン分泌開始時刻(dim light melatonin onset:DLMO)検査などを総合的に評価して、自閉症のお子さんの睡眠状態の正確な把握と治療方針決定に役立てています。

 

自閉症・ADHDの睡眠障害の治療について

 

  1. 睡眠習慣の改善

子どもが眠る部屋の環境調整、入眠の儀式(本を読んでから寝るなど)や日常生活改善(起床時間と就寝時間の一定化)などを含めた睡眠環境調整が一番大切です。

朝の食事,早朝の運動などの非光同調によるメラトニンとその前駆物質であるセロトニンの合成促進,夜のブルーライトによるメラトニン合成阻害の軽減や、輝度の高いディスプレイによるドパミン・ノルアドレナリン分泌の制御など、スマホやタブレットの夜間の使用制限(21時以降は親に預けるなど)も重要な治療法の一つです。

 

2.薬物療法

1)メラトニン

自閉症・ADHDの薬物治療において、米国神経学会のガイドラインでは、第一選択薬としてメラトニンが推奨されています。日本ではメラトニン製剤である、メラトベルの服用を基本としています。

投与時間は、メラトニンの生理的分泌時間と吸収率などを考えて、19:00~20:00が理想的ですが,まず就寝時間を設定し,その30~60分前に投与することが推奨されています。服用後30~60分で心地よい眠気を実感する場合もあり,そのタイミングで就床するとより効率が良い場合もあります。

メラトニンの投与による睡眠の改善とともに,日中のこだわりや行動の問題の軽減,指示の通りやすさがみられることが多いです。

また、乳幼児では言語や共同注意の発達を含め,社会コミュニケーションの促進がみられることが報告されています。

メラトニンは睡眠の質を高めるだけでなく、日中の活動全般の向上をもたらすことが期待されます。

 

2)メラトニンとその他の薬の併用

入眠困難はないが,中途覚醒のみがある場合やメラトニンにより入眠困難は改善したが、夜間の一定時刻に中途覚醒が出現するよう場合は、リスペリドンやアリピプラゾールなど,少量の非定型抗精神病薬が有効です。

昭和大学横浜市北部病院では、少量のリスペリドン(0.5錠から開始)を使用する場合が多いですが、リスペリドンを増量しても効果がみられない、あるいは日中の眠気やだるさが強い場合はアリピプラゾールに変更しています。

 

3)不安障害やパニック障害を合併する場合

不安感や暗闇への怖さなどがある場合は三環系抗うつ薬(アナフラニール)や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:ルボックス)が子どもに対して用いられる場合もありますが、副作用も強く出る場合があり、一般のクリニックでは慎重な投与が必要です。